第14話 梨ヶ坂ゆかりの人
おわり
第14話「梨ヶ坂ゆかりの人」
あらすじ・制度のポイント・台本を読む
第14話「梨ヶ坂ゆかりの人」ノーベル賞(ゆかり・ラッシュ)
十月、ノーベル賞の発表を前に、本庁から「受賞者が梨ヶ坂ゆかりなら、どこよりも早く垂れ幕を」。だが縁のある研究者は一人もいない。「通った人は、みんなゆかりだ!!」テツの垂れ幕が、庁舎の屋上に並び始める――。
この話の制度・豆知識
- ノーベル賞は、毎年10月上旬から中旬にかけて、平日に一つずつ発表されます。発表はスウェーデンの昼前後で、日本時間では夕方から夜です。
- 推薦の中身は、50年間公開されません。新聞やネットの「受賞候補」は、すべて予想です。
- 受賞が決まると、出身地や母校のある町など、「ゆかり」の自治体や大学が、庁舎に懸垂幕を下げるなどして祝うことがあります。ゆかりは、本人と町の間に、はっきりした縁があってのものです。
- 作中の「記帳台」は、処分の小道具です。受賞のお祝いに自治体が記帳台を置く、という実例を確認したわけではありません。
梨ヶ坂市は架空の市です。制度は実在のものを紹介していますが、運用は自治体ごとに異なります。 出典:ノーベル賞の発表日程(ノーベル財団)
台本(セリフ全文)
1ページ
ノーベル賞!? 賞金いくらだ!!
十月。梨ヶ坂市役所・地下。
賞金は、一億円を超えます
おれも取る!!
……何の研究で?
発表は、日本時間の夕方から夜
来週の月曜から、平日に一つずつ
2ページ
本庁の、秘書課からです
……断れませんでした
垂れ幕……予算は?
古い横断幕の、裏を使ってくださいと
どこよりも、早く……?
一番乗りなら、テレビが来るぜ!!
3ページ
受賞が決まるとね、出身の町や母校の町が
確かめてから、庁舎に懸垂幕を下げるの
梨ヶ坂の出身、母校、勤め先
……ゆかりの研究者、ゼロ件です
地元の大学にも、いないのね……
……いや待て!! いるぞ!!
うちの団地の一階に、大学の先生が
4ページ
五階の若いの、おかえり。回覧板
尾根平団地。テツの住まい。
じいさん、大学の先生だったよな
ずっと昔ね。梨の木の研究です
ノーベル賞の知り合い、いねえか!!
……おらんなあ
5ページ
梨の花の、咲いた日をね
四十二年、毎年つけてきました
……これ、全部ノートか!?
研究は、何十年もかけるもの
受賞も、二十年、三十年あとが多い
……継ぐ人は、おりませんがね
四十二年で、感謝状一枚!?
地味ィ!!
6ページ
梨ヶ坂は昔、街道の宿場でね
通っていった人も、みんな
この町の、ゆかりの人ですよ
……通った人は、みんな?
通っただけで、ゆかり!!
梨ヶ坂駅で乗り換えたやつも、ゆかりだァ!!
……おや?
7ページ
ゆかりの条件、その一!! 乗り換えた!!
その二、梨を食った!! その三、ボールペン!!
当てはめると……ほぼ全員です
推薦の中身は、50年間、非公開です
予想記事の候補は、四十一人。全部、予想ですね
なら、予想を全部祝え!!
……そうかしら
8ページ
どこよりも早い垂れ幕!! 全国中継!!
全国のテレビに、おれの顔!!
秘書課が、期待……
本庁に、戻れる!!
吊るすのは、歩合ですか
一枚百円!! おれの財布からだ!!
……源田くんに、お任せします
9ページ
電池の人!! 光の人!! 細胞の人!!
四十一枚です
とどめだァ!! 誰が取っても使える一枚!!
祝・ゆかりの人!!
名前のない垂れ幕って……
10ページ
十本……二十本……
一本ずつ結ぶのは、歩合に入ってません
まとめました
これ、全部つながってない!?
目印の色で引きゃいいだろ
11ページ
週末。
『#梨ヶ坂ゆかり』、回ってます
月曜の朝。
うちのじいちゃんも、梨食べた!!
記念まんじゅう、三千箱作るよ!!
一箱十円、おれに――
受け取れない!! 公務員!!
じゃあ箱に、おれの名前!!
当たったら、二刷りからね
発表の夜、屋上から生中継を!!
12ページ
外国の人も、ゆかりだ!!
月曜の夜。ノーベル賞の発表、一日目。
梨ヶ坂のボールペン、海外には出てません
やめなさい!!
火曜の夜。ノーベル賞の発表、二日目。
やめなさいって!!
まだ水曜がある!! じいさん、解説だ!!
わたしで、よければ
13ページ
水曜の夜。
梨ヶ坂、どこよりも早く祝うぞォ!!
秘書課、つながってます
梨の木も、実がなるまで何年もかかります
日本時間、18時45分から
14ページ
日本の研究者を含む、三人です
分野は……植物の中の物質
……そんな垂れ幕、ねえ
最強の一枚だァ!!
15ページ
出身の町では、お祝いの準備が
母校の大学では、喜びの声が
どこよりも早かったのは……梨ヶ坂市?
秘書課……切れた……
『関係ない人を、四十一人祝う市』
三千箱……
梨は食ってるはずだ!!
16ページ
梨ヶ坂市が『ゆかり』と、垂れ幕を
梨ヶ坂……すみません、まだ一度も
四十年、同じことを続けただけです
ゆかりは、本人と町の大事な縁よ
こっちが勝手に決めるものじゃない!!
研究は、何十年もかけるもの
お祝いは、地元で地道に続けている人にこそ
17ページ
……四十年……
な、涙が……止まった……
はい……全国ニュースで……四十二枚……
はい、豪徳寺です
……承知しました
18ページ
市長室からでした。……源田さん
四十二枚、今夜のうちに。ご自分の手で
安全帯は、必ず
明日からは、この記帳台を背負って
研究を続けておられる方を、お訪ねください
ノーベル賞もいねえのに、誰の!?
それを探すのが、源田さんのお仕事です
九時です。外すのは、歩合に入ってません
19ページ
光の人、からまるなァ!!
その夜ふけ。
……こいつだけは、間違ってねえ
垂れ幕は、五階からが一番目立つんだよ
数日後。
……五階の若いの
四十二枚と、四十二冊ですか……
20ページ
ノートの続き、つけさせてください!!
……おや、まあ
全国ニュースで、続報です
祝・ゆかりの人、売り切れだよ!!
ついに、おれの出番!!
顔ぐらい映せェ!!
この作品はフィクションです。梨ヶ坂市は架空の市で、実在の人物・団体・自治体・制度の運用とは関係ありません。自治体の公式な作品ではありません。
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